今回は、吹奏楽経験者なら1度はお世話になったことがあるはずのスコアメーカー、「ミュージックエイト(エムハチ)」について紹介します。
Jポップスの人気曲などを易しくアレンジした楽譜が人気のミュージックエイト。「M8(エムハチ)」の略称で、吹奏楽経験者の間で親しまれています。
吹奏楽アレンジが有名ですが、金管バンド、アンサンブル用のアレンジ、小学生向け器楽などの楽譜も数多く出版しています。
フレックスシリーズでは、様々な編成に対応できるようになっており、少人数バンドやアンサンブルなどでも重宝されています。
しかし、こう思ったことはないでしょうか?
「ミュージックエイトの曲って、簡単すぎてつまらない」
「エムハチって編曲がちょっとダサいよね」
私も、そう思っていました。創業者の想いを知るまでは・・・。
ミュージックエイトの創立
ミュージックエイト創業者の助安由吉氏は、もともと陸上自衛隊の音楽隊の楽譜係でした(1957年から3年間、陸上自衛隊東部方面音楽隊に在籍)。その頃の楽譜といえばクラシックばかりで、演奏会を聴きに来るお客さんもあまり楽しんでいない様子・・・。
そこで、当時大ヒットしていた「南国土佐を後にして」という歌謡曲を編曲、演奏会のアンコールで吹奏楽アレンジを披露すると、かつてない拍手喝采を浴びたそうです。
当時、流行していたペギー葉山『南国土佐を後にして』
その後、助安氏はNHKサービスセンターの職員、作曲・編曲家の服部良一・克久親子の弟子兼写譜係などを経て独立。初めて歌謡曲を編曲し、お客さんに受け入れられた時の喜びを胸に創業しました。
ポピュラーミュージックの吹奏楽アレンジを作っていくも、当初、業界では「吹奏楽で歌謡曲を演奏するなんて!」と批判も大きかったそう。
それでもあきらめずにアレンジを作り続けていると、次第に活動が知られ始め、楽譜も売れるようになっていきました。
易しいアレンジに至るまで
実は、エムハチの楽譜は、当初から易しいアレンジだったわけではありませんでした。
今度は、吹奏楽の現場から、「ミュージックエイトのアレンジは難しすぎる」と言われるようになりました。演奏レベルが高すぎて中高生には演奏できないから、ほとんどの先生たちが書きかえて使っていると・・・。
そこで助安氏がとった行動が驚きです。
なんと、即座に全ての楽譜を絶版!
音楽隊でホルンを演奏していた時のことを思い出したからです。
難しい曲を見事に演奏できた時、苦手な箇所を本番でミスなく吹ききった時も嬉しかった。でも最も感動したのは、パート3人の音が完全にハモったその一瞬だった、ということを。
練習時間をあまりとれないバンドでも、個人練習を繰り返さなくても、あるいは音楽の才能がまるでなくても、少し練習を重ねれば合奏できる楽譜を提供する。
より多くの子どもたちに、ハモるという感動の一瞬を体験してもらいたい。
こうして、誰もが楽しく演奏するための、易しいアレンジを提供する、というミュージックエイトの方針ができたのでした。
次に待っていたのはアレンジャーの反発です。
アレンジャーの腕がある人間なら、かっこよく演奏映えする編曲をしたいもの。その気持ちを抑え、助安氏の理想に沿う編曲をするようになるまでには、心の葛藤もあったでしょう。
ですが、アレンジャーが易しい楽譜を書いてくれるようになってから、確実に売り上げが上がったそうです。
ちなみに、当時唯一の社内アレンジャーで、今でも編曲に関わっているという山下国俊氏の名前で、ミュージックエイトのホームページで楽譜を検索すると、なんと1700件以上の曲がヒットしました。
現在まで
その後も、当時「身体の小さな小学生が管楽器を吹くのは健康に悪い」という風潮の中で、岩崎弘氏とともに小学生用の楽譜を普及させていったり、コピー問題で倒産の危機に陥るも周囲の活動でなんとか免れたりと、ミュージックエイトの歴史は波乱万丈であったと言えます。
現在は助安氏は会社を退いていますが、今もその意志は受け継がれており、毎月のように新しい楽譜が出版されています。
2018年11月19日現在、ミュージックエイトが出版している楽曲は5468曲にものぼります。
さらに輸入楽譜の販売にも力を入れ、その取り扱いは55654曲!
2015年には、創立50周年記念アルバム『みんなのミュージックエイト~みんなM8を吹いて成長した~』が発売されました。陸上自衛隊東北方面音楽隊が演奏を担当し、収益の一部は東北復興支援の寄付に充てられました。
『みんなのミュージックエイト~みんなM8を吹いて成長した~』
あえて易しいアレンジ譜を作り、楽器を演奏する多くの人にハーモニーの楽しさを知ってほしい。そんなミュージックエイトの意志を知ると、またエムハチの譜面を見る気持ちも変わってくる気がしますね。
ミュージックエイトの譜面を通して、多くの人に吹奏楽の楽しさが広まることを願っています!