吹奏楽の名曲シリーズ。
今回は、ヤン・ヴァンデルローストの代表曲であり、次々に変わる曲調やテンポが魅力の民族舞曲『プスタ(Puszta -Four Gipsydances-)』をご紹介します。
『プスタ』の作曲・編曲された経緯
作曲者はベルギーの作曲家ヤン・ヴァンデルロースト(Jan Frans Joseph Van der Roost)。
主な作曲作品は他に、『交響詩「スパルタクス」 (Spartacus -Symphonic Tone Poem-)』、 『カンタベリー・コラール (Canterbury Chorale)』 、『フラッシング・ウインズ(Flashing Winds)』、『マーキュリー(Contest March Mercury)』などがあります。
このブログでもすでに『ダイナミカ(Dynamica)』、『アルセナール(Arsenal)』を取り上げています。
ヤン・ヴァンデルローストは今も健在で、日本でもフィルハーモニック・ウインズ大阪の首席客演指揮者に就任しているほか、複数の大学の客員教授を務めるなど、精力的に活動しています。
『プスタ』はもともと、音楽講座で使うため、十数名程度の室内アンサンブル編成向けに作曲されたそうです。
その後、要望に応え、ヴァンデルロースト自身が吹奏楽バージョンに編曲しました。
『プスタ』はどんな曲?
曲の副題は、邦題で「4つのジプシー・ダンス」(もしくは「4つのジプシー舞曲」)と呼ばれていましたが、昨今では「ジプシー」が差別用語にあたるという声もあり、「4つのロマの舞曲」と言われることが増えています。
「プスタ」とは、ハンガリーを中心に、東ヨーロッパから中央ヨーロッパ西部に広がる大きな平原の名称。
そこで放浪生活をおくる民族、ジプシー(ロマ)の舞曲が、この曲のテーマになっています。
元々ジプシー(ロマ)の音楽は変化に富んでいるのが特徴で、『プスタ』も曲中にテンポや強弱がどんどん変化していきます。
副題にある通り、曲は4つの楽章から成っていますが、拍子やテンポ、曲調が次々に移り変わっていくため、1つの楽章の中に短い曲がいくつも入っているような印象を受けるかもしれません。
第1楽章は、主要なテーマがsempre accel.でどんどんテンポアップしていく楽章。
第2楽章木管パートが奏でる、優しく美しいメロディーのゆったりした楽章。
第3楽章は全体的に速いテーマが多く、勢いのある楽章です。
第4楽章、後半には長調になってフィナーレに向けて疾走していきます。
木管、特にカデンツァもあり、メロディーを先導する場面も多いクラリネットがおいしい曲ですね。
打楽器はなんといってもタンバリンが主役級に活躍する曲です。
速いパッセージの中にたくさんロールが組み込まれているので大変ですが、見せ所なので張り切っていきましょう。
お手本を聴いてイメージを作ろう~YOUTUBEで聴ける音源~
まずは神奈川県野庭高校による、1998年吹奏楽コンクール、東関東大会での演奏です。
野庭高校を強豪校へと成長させた中澤忠雄先生が1996年に亡くなり、以降野庭高校は1度も全国大会へ進むことができませんでした。
吹奏楽部の人数も減ってしまったのでしょう。
それでも、野庭高校の持ち味である若い躍動感は失われておらず、この演奏も26人という人数の少なさを感じさせない、迫力のある演奏だと思います。
代表こそ逃したものの、東関東大会で金賞を獲得しています。
20年以上前の名演を聴ける、貴重な音源ですね。
東京佼成ウインドオーケストラの演奏もおすすめ。
若干テンポがゆっくりめで、堂々とした演奏。
このほか、クラリネットアンサンブルのような小編成の演奏もありますので、チェックしてみてください。
『プスタ』の音源・CDはどこで手に入る?
こちらのCDは、表題の『交響詩「スパルタクス」』に『プスタ』、『アルセナール』に『カンタベリー・コラール』と、ヴァンデルローストのメジャーな作品が詰まった1枚。
一方、上記作と比べれば比較的マイナーな作品が多く収録されているこちらのCD。
しかし、表題曲の『フラッシング・ウィンズ』は演奏会のオープニングにふさわしい華やかな曲ですし、『リクディム〜4つのイスラエル舞曲 (Rikudim -Four Israeli Folk Dances-)』は、発表された当時コンクールの自由曲で頻繁に演奏されていた曲です。
「ヤン・ヴァンデルロースト吹奏楽作品集」シリーズは、1~8まで出ています。
この第8集はヴァンデルローストの近年の作品が収録された1枚。
演奏は名古屋芸術大学ウィンドオーケストラ、ヨハン・ヴィレム・フリソ軍楽隊。指揮はイヴァン・メイルマンズと、ヴァンデルロースト自身です。
ヴァンデルロースト作品の研究にオススメのシリーズです。
『プスタ』の楽譜はどこで手に入る?
各出版社のほか、楽天市場でも購入することができます。
くるくると表情が変わる、とても楽しくてやり甲斐のある曲『プスタ』。
演奏したことのない団体は、ぜひ一度この人気曲に取り組んでみてください。