吹奏楽の名曲シリーズ。
今回は、実際にあった水爆の事件を吹奏楽で表現した、福島弘和作曲の『ラッキードラゴン〜第五福竜丸の記憶』をご紹介します。
『ラッキードラゴン〜第五福竜丸の記憶』はどんな曲?
作曲は福島弘和さん。
1998年の名課題曲『稲穂の波』や、コンクール自由曲でも頻繁に演奏されている『梁塵秘抄(りょうじんひしょう)〜熊野古道の幻想』など、日本の風景や歴史を題材にした吹奏楽曲・オーケストラ曲を数多く作曲されています。
そんな福島氏の代表曲とも言えるのが、今回ご紹介する『ラッキードラゴン〜第五福竜丸の記憶』です。
この曲は、埼玉県春日部共栄高等学校吹奏楽部の委嘱を受け、2008年に作曲されました。
楽曲レベルはグレード5、演奏時間は約9分です。
初演は2009年5月5日に行われた、春日部共栄高校の第23回定期演奏会。
その年の第57回吹奏楽コンクールにてこの楽曲を披露した春日部共栄は、見事、全国大会で金賞を受賞しました。
そのほか、創価グロリア吹奏楽団や東海大学付属第四高等学校などが全国金を受賞しています。
『ラッキードラゴン〜第五福竜丸の記憶』のストーリー
『ラッキードラゴン〜第五福竜丸の記憶』が作曲されるきっかけとなったのは、作曲者の福島弘和さんと、ある一冊の絵本との出会いでした。
『ここが家だ ベン・シャーンの第五福竜丸』。
ベン・シャーンの連作絵画「ラッキードラゴン」に、アメリカの詩人であるアーサー・ビナードが文章を付けた絵本です。
ベン・シャーンの絵画「ラッキードラゴン」は、実際に起こった事件が元になっています。
1954年3月1日、マーシャル諸島ビキニ環礁で行われていたアメリカによる水爆実験に、マグロ漁をしていて居合わせた日本の漁船「第五福竜丸」が巻き込まれ、乗組員が被爆してしまいました。
乗組員たちは明け方、西から昇る太陽かのような強い光を目撃します。
危険を察知し引き揚げようとしますが、撤去作業中の船には大量の白い灰が降り注ぎます。
これが「死の灰」と呼ばれる放射性降下物で、この灰を多量に被った乗組員たちは被爆してしまいます。
船は2週間後に日本に帰還したものの、船員たちには頭痛や吐き気、皮膚のただれなどの症状が現れ、無線長は半年後に命を落としてしまいます。
この事件は日本で反核運動が高まるきっかけになり、事件を題材にいくつかの映画やテレビ番組も制作されました。
作曲者の福島さんは、「音楽で福竜丸の事実を忘れさせない事へのきっかけになれたら」という思いでこの楽曲を作ったと語っています。
『ラッキードラゴン〜第五福竜丸の記憶』、楽曲のポイントは?
楽曲は「悲しみ 嘆き」「西から昇る太陽」「不安 怒り」「祈り 昇天」「希望 ラッキードラゴン」 の5つの部分から構成されています。
途中までは事実になぞった表現で、後半の明るくなった部分は、船の魂である福竜が船体から離れ、本当の意味での「ラッキードラゴン」となって天に昇って行くイメージで作りました。(福島弘和)
引用元:ブレーンオンラインショップ 「ラッキードラゴン~第五福竜丸の記憶~」楽曲解説
最初のシーンは「悲しみ 嘆き」。
「海」を表現しているという冒頭は、ピアノとビブラフォンの静かな音色に続き、木管楽器の哀愁を感じるメロディー。
その後の、この曲の主題の一つであるクラリネットソロの旋律は、美しく悲しげで胸に訴えかけてくるものがあります。
ホルンの登場で曲は不穏な気配を帯び、クレッシェンドしたのち、一瞬、嵐の前の静けさが訪れます。
つづく「西から昇る太陽」では、水爆が打ちあがる光景、それを見つめる船員たちの様子を、戸惑いや不気味さを感じるような音楽で表現しています。
テンポアップして木管や鍵盤が速いスピードで駆け回る部分は、「不安 怒り」。
死の灰が降り注ぎ、船員たちの不安や焦燥が表されます。
変拍子も交え、激しく荒々しい、緊迫感あふれるシーンです。
テンポが落ち着くと、「祈り 昇天」の場面。
全体に静かで穏やかですが、無線長や船の魂を空へ帰すという、決別の表情ものぞかせます。
再び少しテンポアップすると、明るく希望を感じさせる最終章「希望 ラッキードラゴン」。
船の名前は「福竜丸」。この事件自体は「ラッキー」という言葉とは程遠い出来事ですが、福竜丸が名前の通り「ラッキードラゴン」として天に昇っていくことを願って…。
堂々としたテンポで、冒頭クラリネットソロのテーマも登場します。
そして再びテンポアップし、最後はこの出来事を風化させないという覚悟をあらわすかのように、「不安 怒り」のメロディーを力強く鳴らし、幕を閉じます。
『ラッキードラゴン〜第五福竜丸の記憶』~YOUTUBEで聴ける音源~
まずご紹介するのは、委嘱元である春日部共栄高校のコンクール演奏。
ストーリーが浮かび胸を打つ、すばらしい名演だと思います。
フルで聴くのならこちらの演奏がオススメ。
フィルハーモニック・ウインズ大阪(オオサカン)のライブ演奏です。
指揮は作曲者の福島弘和さんが振っています。
『ラッキードラゴン〜第五福竜丸の記憶』の音源・CDはどこで手に入る?
平成28年度 第22回 西関東吹奏楽コンクール 金賞セレクション Vol. 5 大学の部, 職場・一般の部
こちらのCDには、2016年に『ラッキードラゴン〜第五福竜丸の記憶』で全国金をとった伊奈学園OB吹奏楽団の演奏が入っており、デジタルで1曲単位で購入できます。
ラッキードラゴン/東海大学付属第四高等学校吹奏楽部
こちらも2013年に全国金をとった東海大学付属四高等学校の、演奏会のライブ音源です。
サックスプレイヤーとの共演、ポップスステージに合唱など聴きごたえある一枚です。
『ラッキードラゴン〜第五福竜丸の記憶』の楽譜はどこで手に入る?
『ラッキードラゴン〜第五福竜丸の記憶』は、レンタル楽譜のみの取り扱いとなっています。
ブレーンオンラインショップでレンタルできるようなので、チェックしてみてください。
水爆の恐怖や悲しい記憶を忘れないために作られた楽曲、『ラッキードラゴン〜第五福竜丸の記憶』。
この楽曲を演奏することは、歴史を知り、語り継ぐという意味でも、重要な意味を持っています。
吹奏楽をやっている多くの人に、演奏機会があるといいなと思います。
参考URL:
COSMUSICA
忘れてはならない記憶と平和への思いを音楽に乗せて/福島弘和『ラッキードラゴン第五福竜丸の記憶』
https://cosmusica.net/?p=9391