吹奏楽の名曲シリーズ。
今回は、巨匠アルフレッド・リードの作品の中でも特に人気の高い吹奏楽曲の1つ、『春の猟犬(The Hounds of Spring)』を紹介していきます。
『春の猟犬』はどんな曲?
吹奏楽界の巨匠、アルフレッド・リード(Alfred Reed)。
生涯で200曲以上の吹奏楽作品を作ったリードですが、『春の猟犬』は、このブログですでに記事にしている『アルメニアン・ダンス パート1』と並んでリードの代表曲といえる楽曲です。
日本では『春の猟犬』のほか、『序曲「春の猟犬」』、『春の猟犬~吹奏楽のための演奏会用序曲~』などと表記されることもあります。
作曲された経緯
『春の猟犬』は、カナダのコンサートバンドとその指揮者から委嘱され、献呈された曲です。
リードは、イギリスの詩人アルジャーノン・チャールズ・スウィンバーン(Algernon Charles Swinburne)の詩、『キャリドン(カリドン)のアタランタ』(Atalanta in Calydon)の一節から着想を得てこの曲をかいたと言われています。
その有名な一節がこちら。
春の猟犬が冬の足音をたどる頃
月の女神が牧場で草原で
暗がりを、風吹く場所を
葉音、雨音で満たす(中略)
微笑み隠す唇ほど柔らかな
木々の茂みを陽気に分け入り
追い求める神々の目を逃れ
かの乙女は身を隠す(略)
イマイチわからないですよね…苦笑
猟犬とは、狩猟の女神であるアルテミスの猟犬のこと。猟犬たちが冬を追い払い女神が春をもたらす。しかし季節は移り変わり、春は夏から追われる立場でもある…という趣旨の詩のようです。
『キャリドンのアタランタ』のストーリーはギリシア神話がベースになっていて、全体としては悲劇的な内容のようですが、リードはこの一節の明るさ、美しさを音楽で表現しようとしたとのこと。
以下は、作曲者であるリードのコメントです。
「春という季節の若々しい恋を描いた魔法の絵-それを純粋な音楽で表現しようとして、伝統的な三部形式の序曲の形をとり、この美しい讃歌は誕生した。
スウィンバーンによるこの詩の二大要素、即ち”若さあふれる快活さ”と”優しい恋の甘さ”とを、それに相応しいテクスチャーの音楽で描こうとしたものである。」
ちなみに、『春の猟犬』の後に作曲された『プロセルピナの庭(The Garden of Proserpine)』という曲も、スウィンバーンの『詩とバラード第1集(Poems and Ballads I)』という作品をもとに作られた曲だそうです。
『春の猟犬』、演奏のポイントは?
曲の形式はA-B-Aのわかりやすいもの。
Aの部分は猟犬が雪の原っぱを駆け回る明るく元気な様子を表現し、中間部Bは美しく叙情的に聴かせます。
基本となるテーマがあまり馴染みのない8分の6拍子のうえ、変拍子も多く、譜面に慣れるまでは大変かもしれません。
ターンタタン(符点8分音符+16分音符+8分音符)のリズムもとりづらく感じる人もいると思います。
CDなどの音源を聴いて、体にリズムを染み込ませるのが早いかもしれません。
全体的に明るく、春の訪れにワクワクするような曲調なので、躍動感を意識して楽しんで演奏できるといいですね。
一流の演奏から学ぶ~YOUTUBEで聴ける音源~
ぜひチェックしてほしいのが、1988年の全日本吹奏楽コンクールにおける野庭(のば)高校の演奏です。
ぜひ音量を大きめにして聴いてみてください。
30年以上前の演奏ですが、全く色あせない本当に素晴らしい名演です。
気合いの入った最初の一音、強弱のメリハリ、中間部のタメとラストのテンポアップ、文字通り躍動する奏者たち。
魂のこもった…というのでしょうか、プロの端正な演奏にはない迫力と情熱を感じることができます。
伝説の名演シリーズでも取り上げた野庭高校。
83年から88年の6年間で、全国大会へすすんだのは4回。その全てで金賞を獲っています。
さらに、その4回とも自由曲はアルフレッド・リードの作品!
統合されて今は存在しない野庭高校ですが、現在もファンが多いのもうなずけます。
『春の猟犬』の音源・CDはどこで手に入る?
1枚目は「Reed!×3 Vol.2」。大阪市音楽団の演奏、指揮者はリード本人によるもの。
交響曲第5番「さくら」(Fifth Symphony – Sakura)や、前述した『プロセルピナの庭』も収録されています。

2枚目は「アルフレッド・リードの芸術」。
これはすごいです。全66曲、CD5枚組、リードの作品がこれでもか!と詰め込まれたアルバム。
アルメニアン・ダンスのパートⅠとⅡのロリの歌は2バージョン入っています。
『春の猟犬』の楽譜はどこで手に入る?
各出版社のほか、楽天市場でも購入することができます。
定期演奏会のメインにも据えられる『春の猟犬』。取り組み甲斐のある曲なので、ぜひチャレンジしてみてください!